20130728/風立ちぬ

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「風立ちぬ」を見てきた。ネタバレはしない。

所感

思ってたのと違った。ものすごい美麗なアニメーションで(そこは合ってたし、予想を遥かに上回るものだったけど)、頭空っぽにして行って映画館を出る頃には夢と感動で頭が一杯になってるみたいな。そんな作品じゃないですね。終わった直後に隣のカップルが「寝てた?」って聞いてたけどそれが全て。隣に座ったカップルの終了第一声が全て、っていうのはありますね。っていうのは置いといて。

「主人公に悩みや葛藤がない作品はクソだ!」とか思いながら歩いてて入館の際に手渡された手紙を思い出した。

「この作品がどんな作品だったか教えて下さい。」

どんな作品ってそりゃあ…

整理する

秀才で特に苦労、挫折もなく夢にむかって歩いて行く、ひょんなことから、いきなりバタ臭い言葉を浴びせてくる娘に出会う。美しい風景、気持ち良い風。バタ臭い娘。でもそんな娘は病気持ち。彼女は彼女なりにどう生きるべきか、なにが自分の幸せか、主人公との出会いによりそれらが決まる。

生きねば。この言葉を軸に考えた時、主人公はどう生きたのか。忙しく働くことを選んだ。働きながら、出来る限りの幸せを享受する。嫁の命は長くない。でも、彼は飛行機を作り続けなければならなかった。飛行機を作ることなしに彼の存在はありえない。あんなに夢見ていた飛行機をつくることをやめることは彼にとって死とイコール。結核と向き合い、真摯に生きている嫁にも申し訳が立たない。彼はあの形で生きるしか道がなく、あるいはそれしか知らなかったというのは幸福なのかもしれない。

改めて感想

「生きる」ってことが非現実的な生命のやり取りみたいな形で書かれるのではなく、もっともっと近すぎてわからないぐらいのリアリティで描かれている話。しかも、貧困、戦争、戦時下の不安、とかそういった諸問題を歯牙にもかけず、ひたすら自分の愛するものだけを追いかける。気持ちの悪さを覚えるくらいに省かれた心理描写は感情移入を拒否するので、多くの人は主人公にあまり共感できない。こんな形で生きるってことを描いた人は他にいないだろうよ…ってんで本当にすごい作品だった。

どうでもいいこと

  • 主人公はなんだか見た目もいいし、葛藤とかもなく順調に成功しているので気に食わない。最後は号泣した人が多いみたいだけど、彼は夢の中で生きているので菜穂子というか薄命のサナトリウム系美少女が好きで夢で会えたりするからそんなに可哀想とは思えない。
  • それに対して本庄は人間的ですごい好きになる。いい脇役。
  • でも個人的に一番好きなのは軽井沢にいたドイツ人。 山盛りのクレソンを喰らい、器用にピアノで弾き語りをしたりするけど、いきなり「日本、破裂、ドイツ、破裂」とかなんだか不穏な空気を出したと思ったら、「コノナツハ、イイナツデース!」とかかっこいいことを言い出したりして、主人公とヒロインをつなぐ実は重要な人物なんですよね。彼はドイツ人で、軽井沢を魔の山(読んでないけどこれ見てすごい読みたくなった!)へとつなぐ役まわりだよなーとか思いながら。ほら、主人公もヒロインもなんだかそういうのにかぶれてるじゃない。何を隠そう僕もかぶれてるんですがね。ああいうドイツ人に、私はなりたい。